東京都港区にある東京メトロ溜池山王駅近くに上水源としても利用されていた「溜池」があったことは良く知られています。当時の河川を堰き止めて造られました。溜池交差点から赤坂交差点手前までの外堀通りになっていますが、不忍池と並んで大変風光明媚なところであったと云われています。竹内正浩氏著「地図と愉しむ東京歴史散歩地形篇」(中公新書)によりますと、江戸城(現在の皇居)の内濠もダム湖であり、現在の御所がある一帯の高地を中心とする地形の高低差により内濠に水の流れがあることが記されています。JR御茶ノ水駅の横には渓谷をつくる神田川が流れ、起伏に富んだ江戸中心部(現在の都心)には豊かな湧水による池も多数存在しました。港区にある六本木ヒルズの毛利池の下には、以前に一帯を所有していたニッカウヰスキーのニッカ池が保存されており、自生する蓴菜がみられたとも云われています。
都心から武蔵野台地に視野を広げると、神田川の水源池は井の頭池で、神田川の旧名は神田上水、やはり江戸の大切な水源でした。東京都内の水道は現在、利根川・荒川水系から80%近く、多摩川水系から20%程度供給されています。昭和時代の前半までは多摩川水系が中心でしたが、江戸の六上水の一つである玉川上水に端を発しています。現在の東京の水源は、江戸時代の上水設備から時代に対応して進化してきており、世界に誇る大都市を支えています。ただ、一つ心に留めおきたいのは、都市化に伴い道路の舗装などが進み、井の頭池を含む江戸時代の湧水は、殆ど枯渇してしまっている(現在の池の水はポンプで汲み上げている)ことです。江戸時代には崖崩れや洪水など水害にも悩まされていましたから、勿論、治水を含めて前に進むことは大切です。一方、先を見通した視野を持って前進する必要性については、地球を取り巻く県境問題と共通するものと考えられます。