油麻地駅では3台並んだ切符自動販売機の2台が使用中止になっていて、1台に女性スタッフが付いて購入客の列をできるだけスムーズにこなす手助けをしていました。ホームではセントラル行きが目の前で出発したばかりで次を待ちました。次の列車は満員で、並んだ扉で数人は乗れましたが、日本の通勤列車のように背中で中の乗客を押して無理に乗る訳にもいかず、更に待つことにしました。しかし、目の前の扉がなかなか閉まりません。現地の乗客にはアナウンスがされていますが、英語のアナウンスはありません。次の駅に列車が詰まっているのか、設備の故障などがあったのか。5分程度待ったでしょうか。漸く目の前の列車が出発し、次に来た列車で何とか金鐘駅へ。そして港島線へ乗換えるべくそのホームに向かった時に目にしたのは…。港島線が動いていない様子で地下の広いホールがヒトで埋め尽くされています。待っても無理だと直観的に感じました。トラムだ。地上に上がりました。意外とヒトが少ない…。歩道橋を渡って安全地帯へ降りようとした時にもう一つの異変に気づきました。メインストリートに走る車はタクシーが数台程度、トラムの姿もない。安全地帯から観光客と思われる数人の女性がノートラム、と叫びながら階段を上がってきました。次はバス停へ。6月9日は何かがあります、掲示板に何か漢字表記がありますが意味は不明です。唯一の救いは香港島に戻ってきていることでした。グーグルマップではホテルまで徒歩30分以内とのことで、歩くことにしました。 数台のタクシーを除いて車両の往来がないメインストリートの交差点には警察官が相当数待機していました。国賓でも来るのか。後で過去のネットニュースを見て知ることになりますが、今回の2019年逃亡犯条例改正案に対して3月31日に第1回目、4月28日に第2回目の反対デモが行われ、同主催者は5月の時点で6月9日に第3回目として更に多数の参加者を目標としてデモの開催を発表していたとのことです。気がつくとマイクで主張しつつデモの列が私たちの歩いている歩道の反対車線を埋め尽くして前進してきました。午前中にビクトリアパークからゴーズウェイベイ駅近くまで戻ってきた時、繁華街で演台の設置やマイクでの訴えが始まっていたのが思い起こされました。デモ列の人達がもつプラカードには「反送中」「NO CHINA」とあるのを確認しました。旅行者としての判断として、デモは合法的な活動であって暴徒化している訳ではない、但し政治的なことが関係している限り、英語も含めて周囲に通じる言葉を発することは避けた方が良い、メインストリートを跨ぐ歩道橋の上からデモ列の写真を撮っているヒトも居ましたが,もちろん写真を撮ることも考えませんでした。身に危険が及ぶことを避けることもありましたが、主張内容は分からないとは云え、相当数の香港市民が真剣に何かを訴えているときに報道など目的もなく写真を撮ることは失礼になると思いました。今回のテーマは逃亡犯条例改正案であり、参加者はデジタル断ちをし、顔もマスクなどで覆っての参加だったそうです。携帯電話の位置情報機能を切って、MTRの乗車にもオクトパスカードを使わない、中国当局にデモへの参加を追跡されないための防衛策です。そのような意味でも、観光客が近距離から顔も認識できるような写真を収めることをしなかったことは正解であったと思っています。 デモの列を1回横断することは避けられず、警察官が誘導する中、他の数人のヒトに混ざって交差点を横断し、何とかホテルに戻ってくることができました。夕方5時頃であったと記憶しています。予定していたゴーズウェイベイ市中での昼食が摂れなかったため、ホテルのカフェにて高価で何の変哲もないサンドイッチを食べて空港への準備を始めました。MTRの駅を確認に行くと、その時点では列車は問題なく運行されているようでした。香港人がデモの終了時刻を何時頃が適当と考えるか分かりません。明日は月曜日なので夜7時か、8時か、あるいは朝の開始が遅い街と感じていたので、もっと遅くなるのか。何れにしてもデモに参加している人達がMTRで自宅に戻り始めると空港に行けなくなります。いざとなったらタクシーか、いやしかし、異常事態下にホテルがタクシーを保障してくれるとは思えません。
出発時間は夜7時と決めて、シャワーを浴びて荷造りをしてMTRで空港へ向かい、何事もなく8時頃には到着しました。0時30分離陸まで大分時間があります。予定していた観光ポイントの大半が回れたように思っていましたが、空港への途中で九龍から香港島の夜景を見る予定をすっかり忘れていました。何とか無事に空港に戻れましたが、間もなく香港を離れます。自分たちの早めの行動が正解であったのかどうかも確認する術は多分ありません。
• 早朝帰国から出勤までの時間